アトピー性皮膚炎とは
1933年にアメリカの皮膚科医サルツバーガー(Salzburger)とワイズ(Weiss)は、体質性湿疹、内因性湿疹などと称されていた病気がアレルギー病の範疇に入ると考え、この不思議な皮膚炎を一つにまとめて「アトピー性皮膚炎」という病名を提唱しました。
アトピーはギリシャ語のATOPOSに由来しており、「奇妙な」「不思議な」と言う意味があります。
アトピー性皮膚炎は、悪化と軽快を繰り返すかゆみを伴う湿疹が広範囲、左右対称性にみられる疾患です。乳児期や幼児期に発症し、小児期には寛解する場合もありますが、再発を繰り返す場合もあります。また、一部の患者様では思春期や成人期に発症することもあります。
程度も、経過も人によって様々ですが、小さいお子さんの場合は年齢とともに改善することが多いです。一方で、症状が重い患者様は日常生活に支障を来すこともあるので、しっかりと通院して、長い目線で治療にあたることが大切です。
同じクリニックに長く通うことで、季節による悪化を早く察知出来る、最適な治療を選択出来るといったメリットがあります。
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎は、遺伝や体質による原因(内因性)、物理的刺激、アレルゲンなどの原因(外因性)が複雑に組み合わさり生じると言われています。
古典的な「アトピー素因」とは、以下の2つの要素を指します。
- 家族歴や既往歴
気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、または複数の疾患の家族歴や既往歴があること - 抗体を産生しやすい素因
アレルギー反応を引き起こすIgE抗体を産生しやすい体質
近年は皮膚バリア機能の問題がアトピー性皮膚炎にかかわっていることも明らかになってきています。
セラミドの産生不足とフィラグリンと呼ばれる角質を構成するたんぱく質の機能遺伝子異常が特に皮膚バリアの機能低下を及ぼします。
特に日本人においては、アトピー性皮膚炎の患者様の4人に1人がフィラグリン機能遺伝子変異を持っていると言われています。
これらの他に温度、湿度、発汗、ストレス、ウール繊維,精神的ストレス、飲酒、かぜなどはアトピーが増悪する原因とされています。
アトピー性皮膚炎の治療
保湿(スキンケア)
アトピー性皮膚炎の患者様の皮膚は乾燥しやすく、乾燥するとかゆみや炎症が悪化することがあります。
保湿剤は皮膚の水分を保ち、乾燥を防ぎバリア機能を高め、悪化を予防するためにとても重要です。
適切な保湿剤を選び、入浴後や必要な時に十分に塗布しましょう。一般的なものはヘパリン類似物質系、尿素系、ワセリン系です。患者様に合わせて処方させていただいています。
処方薬以外にもセラミドやNMFが有効成分として含まれた保湿剤も販売しておりますので、ご希望の方にはご案内いたします。
ステロイド外用
炎症が起きて症状が強い場合、ステロイドの塗り薬が必要になることもあります。
ステロイドの薬は決して怖い薬ではなく、適切に使用することでアトピー性皮膚炎をコントロールすることができます。
塗り薬として使うだけでは全身的な副作用はありません。
一方で漫然と長く使用すると局所的な副作用(皮膚の菲薄化、ステロイド酒さ)などが出ることがあります。
必要時に必要な分だけ使用することが大切です。再発しやすい部位には、症状が改善した後は、2-3日に1度症状がなくても塗り薬を塗るプロアクティブ療法を行うことを推奨しています。
光線療法
局所的に湿疹が重症化した場合、当院ではエキシマ光線療法を使用しています。
以前より湿疹患者様が太陽光線にあたって日焼けすると一時的に湿疹が改善することは一部の臨床皮膚科医には知られていました。
研究の結果、中波長紫外線の領域に含まれる非常に幅の狭い波長のみ免疫を抑えることがわかり、日焼けを引き起こす有害な波長を取り除いた紫外線を病変に照射する方法が治療に応用されています。
抗ヒスタミン薬
全身の炎症や、かゆみを抑える作用があります。また、一部の薬は鎮静作用(眠くなる作用)もあります。様々な種類の抗ヒスタミン薬があります。
作用の強さ、効き方、内服の回数、鎮静作用の出方もふまえて調整していきます。
免疫抑制剤・生物学的製剤
全身的にアトピー性皮膚炎が悪化し、通常の内服、外用ではコントロールが難しい場合に免疫抑制剤の内服(ネオーラル)や生物学的製剤の注射製剤(デュピクセント、ミチーガ、アドトラーザ、イブグリース)、JACK阻害剤の内服(サイバインコ、リンヴォック、オルミエント)を使用します。
高度な治療になるため、必要に応じて採血を行いながら定期的に通院していただき管理させて頂きます。
よくある質問(Q&A)
アトピー性皮膚炎で食べてはいけない物、効果のある食べ物はありますか?
アトピー性皮膚炎と食事の関係の情報はネットでも溢れており、それぞれの内容が異なるような状況です。見た患者様が混乱する様な記載が多いのは残念です。
現時点で、アトピー性皮膚炎を改善させる科学的に証明された食事療法はありません。
アレルゲン除去食は体重減少や栄養障害を引き起こすとして、現在は推奨されていません。
必要に応じた抗炎症治療を行う事のほうが重要と考えられています。
(当院では、ステロイド外用は標準的に行なっていますが、ステロイドに忌避感が強い方は遠慮なくおっしゃって下さい。)
アトピー素因がある方は食物アレルギーを有することが多いことも事実です。
場合によってはアナフィラキシーを起こす事もあるので、ケースバイケースで医師の指導を受ける事が大切です。
アトピー性皮膚炎とストレスがどのように関係があるのでしょうか?
心理的なストレスが痒みを強めたり、皮膚バリア機能を弱るたりすることで症状が悪化する事があります。
アトピー性皮膚炎は大人になって体質改善すればよくなりますか?
子どものアトピー性皮膚炎は年齢と共に改善する事が多いです。成人するまでは、症状は良くなったり悪くなったり波がある事が多いです。
アトピー性皮膚炎の新薬について教えてください。
軟膏ではステロイド、免疫抑制剤であるプロトピック以外に、近年発売されたものにJAK阻害薬であるコレクチム、PDE阻害薬であるモイゼルト、生物学的製剤として、デュピクセント、アドトラーザ、ミチーガ、内服薬として、JAK阻害薬であるオルミエント、リンヴォック、サイバインコなど続々と新薬が登場して来ています。
アトピー性皮膚炎は市販薬で効果はありますか?
保湿剤、ステロイドなどは効果があると考えられます。
改善が得られない場合は皮膚科を受診しましょう。
アレルギー性皮膚炎とアトピー性皮膚炎の違いはありますか?
アレルギー性皮膚炎という正式な病名はありません。アレルギー接触皮膚炎の事を指す事が多いです。
状態も症状も異なる疾患です。
アトピー性皮膚炎と喘息は関係ありますか?
アトピー素因がある方は喘息のリスクも高いと考えられます。
アトピー性皮膚炎の人がニキビができた際に注意することはありますか?
皮膚バリア機能が弱くなっていることから、ニキビができやすい傾向にあります。
特に乾燥する時期に起きやすいです。
掻きこわすことで周囲に広がると、とびひの状態になる事もあります。早期の治療が大切です。